1.海底熱水噴出孔を模した環境下でのアミノ酸・ペプチド様ポリマー・細胞状構造体が生成するが、アミノ酸の無生物的生成過程が不明であった。そこで、種々の無生物合成実験を行い、その生成物中のアミノ酸前駆体のキャラクタリゼーションを行った。種々の系においてStrecker反応中間体であるアミノ酸アミド・アミノニトリルが同定されたが、それ以外の前駆体の存在も検出され、アミノ酸がStrecker反応以外の反応機構によっても生じることが示唆された。 2.これまで海底熱水噴出孔環境での有機物の安定性を調べるために遊離のアミノ酸に関してのみ実験がなされてきたが、1で判明したアミノ酸前駆桑の化学形に着目することにした。アミノ酸水溶液、アミノ酸アミド水溶液、無生物合成実験生成物水溶液を各々、80気圧の窒素ガスで加圧した後、300℃で2時間、加熱した後、分析を行った。いずれの系でも加圧・加熱後、遊離アミノ酸は痕跡量しか検出されなかった。しかし、生成物を酸加水分解したところ、グリシン・グルタミン酸・アラニン・セリンなどのアミノ酸が数%前後残存した。また、加熱前後のアミノ酸残存率は加熱前のアミノ酸の化学形によって異なることもわかった。これらの結果からアミノ酸の熱耐性重合物が生成が示された。 3.海底熱水噴事出孔海水中のアミノ酸定量法の検討を行った。沖縄トラフにおいて採取された熱水試料をろ過、酸加水分解後、アミノ酸の前濃縮なしでの直接分析を行ったところ、グリシン・アラニン・グルタミン酸・セリンが定量された。これらのアミノ酸は2でのアミノ酸加熱実験において残存率の高いアミノ酸と一致した。 4.今後は熱耐性アミノ酸重合物のキャラクタリゼーションや、熱水中の水素フガシティーの影響を中心に研究を進めていく予定である。
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