ミリ波での星形成領域の最近の観測から、分子雲は不均一で階層的講造を持ち、乱流的状態にあることは明かとなってきている。星の質量分布がこの分子雲の階層性と関係していることは、分子雲の中の高密度コアでは星形成が活発に起こっている事からも示唆される。この分子雲の階層的構造を定量化する方法を確立する事を目指し、ウェーブレット解析によって記述する試みを行った。野辺山電波観測所のグループの分子雲観測データなどをウェーブレット解析できるプログラムを開発した。プログラムがツリー構造やFFTの工夫が可能で計算の高速化がはかれることが明かとなった。解析方法については、紀要にその原理をまとめて提出しておいた。この方法で解析を進めるため、平成4年度の補助金により、ワークステーションシステム一部を購入した。観測データの解析については、このシステム上で開発したプログラムを起動させ、国立天文台野辺山のグループの協力で、L134N領域の解析をした。1つの固まりと見えるものを分解度を2倍にすると、3-5個のものからなっていることがわかった。また、分解度をあげて見たときに、密度が低い領域からは、新たなピークが余り現れない事から、分子雲は、乱雑にではなく階層的にクラスタリングしている事がわかった。解析には、正規直交ウェーブレットとそれに相当するスケーリング関数を用いた。この正規直交系の使用では、観測データでは36×36点しかないので、せいぜい5オクターブのレベルでしか解析はできないが、非直交ウェーブレットを用いる事も考えられるので分岐をより詳しく見られる余地が残っている。また、速度情報もデータから得られるので、ピークの分岐が実体であるのかの検定や3次元構造を再現する情報も得られよう。スケールが小さくなると、フィラメント形状をとる確率が高くなる事も示唆された。これは、あるスケールでフィラメント形状を形成させる物理過程が支配している可能性が高い。IRASのデータ等も用いて、この観測データの解析結果の妥当性のチェックも行っている。物理過程の可能性についても考察中であるが、その理論モデルの応用として2編ほど論文にしたものがある。上記の結果の一部を研究会等でも発表した。このデータ解析作業過程で、観測データのドップラーシフトの情報もうまくすると奥行きの情報として。解析に環元できる可能性が出てきた。
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