研究概要 |
本研究は、音声によって表わされる感性情報を、パラ言語情報と非言語情報とに分け、それぞれが話し手の音声の音響的特徴を介して表出されまた聴き手に受容される過程、さらには聴き手の側に新たな感情が生成される過程を、定量的に解析して定式化することにより、音声を介する人間相互のコミュニケーションにおいて感性情報の占める役割を明らかにすることを目的としている。さらに、得られた知見を音声合成および音声認識に導入して、人間と機械の間のコミュニケーションの精緻化にも寄与することを目標とする。本年度は、主としてパラ言語情報に焦点を当てて研究を進め、当初計画をほぼ満たす以下の実績をあげた。 (1)対象とする文を選定し、それを各種の意図をもって発音した連続音声を、東京方言の男性話者と、女性話者について収集した。選定とした文は短文であり、種々のアクセント型の組合せの文を用意した。 (2)収集した音声資料について、その韻律的特徴、特に、基本周波数パターンを生成過程のモデルを用いて分析した。得られた結果と話し手の意図とを比較することにより、主として、「断定」は動詞句のアクセント指令の大きさ、「疑問,勧誘,反論」は文末モーラの基本周波数の上げによって表出されることを明らかにした。また、指令の大きさなどの具体的な値がアクセント型によって異なることを示した。 (3)自然音声を用いた聴取実験によって、表出・受容の関係を同一個人および異なる人の間で調べ、その異同を明らかにした。 (4)自然音声の分析結果を基に、基本周波数パターンのパラメータを制御した合成音声を作成して聴取実験を行った。結果からパラメータとパラ言語情報との関係を定量的に明らかにし、簡単な韻律規則としてまとめた。また、アクセント型本来の基本周波数の下げが、知覚上重要であることを示した。
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