研究概要 |
本研究は、異方性の異なる一連の有機物質についてボルテックスのダイナミクスを広い周波数ドメインで調べることを目的とし、3年計画でスタートした。擬2次元層状超伝導体のボルテックス状態を系統的に調べるには、層間結合の評価がその出発点として重要である。本年度の成果として、磁場侵入長が層間結合を特徴づける有効なパラメータであることが以下の過程で明らかになった。層状物質の2次元層に平行な磁場のもとでの層に平行方向の磁場侵入長λは、超伝導層間結合を特徴づける指標となる。我々は、κ-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]Br(Tc=11.5K),κ-(BEDT-TTF)_2Ag(CN)_2H_2O(Tc=5.OK),κ-(MDT-TTF)_2AuI_2(Tc=4.2K)の3つの物質を取り上げ、これらの単結晶の交流帯磁率を測定することによりλを求めた。ゼロケルビンに外挿したλの絶対値は、上の3つの物質について、それぞれ、210μm、80μm、17μmと見積もられた。このように一桁以上にわたって異なる値をとることから、同じκ型の構造をしていながら超伝導層間の結合は物質によってかなり異なることがわかる。すなわち、κ-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]Brが最も2次元的で、κ-(MDT-TTF)_2AuI_2が最も3次元性が強い。このようなバリエーションは、上述したようなボルテックス状態を系統的にしらベようとする我々の立場からすると好都合である。層間結合の大きな違いは、伝導層間の幾何学的な配置、間に入る絶縁層の分子、そして伝導層内の分子の違いに帰着される。層間結合で両極端にあるκ-(BEDT-TTF)_2Cu[N(CN)_2]Brとκ-(MDT-TTF)_2AuI_2について、伝導層の両端に位置する水素核のNMR緩和率で比較してみると、後者の方が水素核サイトでの伝導電子によるhyperfine fieldが、約3倍大きかった。つまり、それだけ伝導電子が伝導層の端まで強く張り出していることになり、κ-(MDT-TTF)_2AuI_2における3次元性を分子軌道の点から示している。
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