本県究は、「電子プールを有する金属錯体」という新しい概念に基づく錯体の合成とその反応性を検討し、究極的に不活性小分子の活性化にを達成する基礎的な知見を収集することを目的としている。本年度においては、金属クラスターの設計と、配位子として多環式芳香族化合物であるアセナフチレンとその誘導体、非ベンゼノイド芳香族化合物であるアズレンとその誘導体を有する鉄、ルテノウムの2-3核錯体の合成を検討した。その成果として、グアイアズレン鉄複核カルボニル錯体における光によるハプトトロピック転位の詳細な検討により、この種の錯体が可視で活性化され、熱過程とは異なる反応をおこすことを明かにした。また、アセナフチレンを配位子とするルテニウム3核錯体において特異的な水素化が進行し、アセナフチレンが部分水素化を受けたルテニウム3核ヒドリド錯体が生成することを見いだした。一方、配位子として特微的な共役π電子を有する炭素クラスターC60について、C60の製造とその基礎的な物性に関する研究をおこなうとともに、その有機金属錯体の合成を検討した。その結果、有機金属ポリマーC60Pdnの合成法とその性質を明かにするとともに、このポリマー状錯体を原料とした単核錯体、C60Pdl2(L=Phosphine)の一般的な合成経路を確立した。
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