アジド基を側鎖にもつポリスチレン系高分子:[Poly(styrene-co-viny1 benzy1 azide)](AZMS)の固相薄膜試料の光橋かけ反応応効率が外部磁場を印加すると減少し、又、その減少する割合はポリマー中のアジド基が多くなると大きくなることを観測した。本研究では固相ポリマーでの外部磁場効果の機構を解明するため、反応場としてのポリマーマトリックスの性質とそれが磁場効果に与える影響を考察した。先ず、固相でのアジド基の光化学的な挙動を検討するため、p-Octy1 pheny1 azideとOctadecy1-p-azidobenzoateを合成し、それらをTripalmitinと種々の割合で混した単分子膜(凝縮膜)を作成した。表面圧が10〜20mN/mとなる一定面積下でこれらの単分子膜に光照射しアジド基を光分解するとその表面圧が低下し、アジド基が光分解すると凝縮膜中ではアジド分子の自由体積が増大することがわかった。次に、アジド基の含有量の異なる幾つかのAZMSポリマーを合成しその固相薄膜試料の過渡吸収スペクトルをレーザ分光法で測定した。500〜650nm領域にスチレン環に起因するエキシマーの吸収帯が、又、290〜400nm領域にエキシマーのけい光を観測することができた。このエキシマー型のけい光強度はAZMS中のアジド基の濃度が増すと弱くなることからAZMSポリマーではアジド基の導入により側鎖の運動性が制限されていくことが判明した。AZMSポリマーでは一重項ナイトレンのC-H挿入反応とポリマーラジカルの再結合反応が競争してポリマー間の橋かけをおこす。ここでC-H挿入反応は立体特異的であり、その橋かけ反応効率はポリマーラジカルのそれに較べて小さい。さらにアジド基を多く含むAZMSポリマーではポリマーの運動性が制限されていくためナイトレンのC-H挿入反応による橋かけ反応効率がさらに小さくなっていく。以上のマトリックス効果を考慮し磁場効果におけるラジカル対モデルを適用した結果、AZMSの橋かけ反応に対する外部磁場効果の実験事実を満足に説明することが出来た。
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