研究概要 |
通常の原子・分子は原子核と電子から成るが、他の粒子(Xと呼ぶ)も含む系をエキゾティックアトムと呼ぶ。Xには、負電荷をもつ反陽子、Κ粒子、π粒子、μ粒子、Σ粒子、Ξ粒子などがある。本研究ではXが物質原子に捕まってできる状態の物理を明らかにした。 粒子Xが原子に捕獲される最初の軌道は電子軌道と同程度の半径をもつ。これはXの軌道としては高い主量子数を意味する。捕獲直後の高軌道にいるXの運動は電子よりはるかに遅いので、分子のように、ボルン・オッペンハイマー(BO)分離が良に近似になる。 実例としてHe^+X^-とNe^+X^-をBOで近似で扱った。まずポテンシャルエネルギーV(R)を計算した。He^+X^-では正確に計算できるがNe^+X^-ではCI計算を行った。遠心力ポテンシャルを加えると高い回転状態ではモース・ポテンシャルに似た形をとる。従ってその中での固有状態は通常の振動状態に似ている。一旦V(R)を求めておけば、異なるXを含む系の違いは単に振動回転運動の換算質量の違いだけになり、これらの系を統一的に論じられる。これはエキゾティックアトムの従来の理論にはない新展開である。V(R)を眺めるだけでエネルギー構造や系の大きさなどの性質が分かってしまうことは考えもさえなかった。 この分子は通常の極性分子のように双極子モーメントをもち、通常の赤外遷移の扱いに準じて放射遷移レートが計算できる。非調和性が強いので通常の振動遷移選択則Δv=0,1は破れるが、それでもこの遷移が強いとの傾向則は成り立つ。つまる遷移エネルギーが大きい方が起こりやすいとの従来のエキゾティックアトム理論の常識は間違っていた。 反陽子ヘリウムの一部に通常より数桁長いμsec程の長寿命状態があるのを最近、山崎敏光グループが測定した。これはπヘリウム、Κヘリウムにつき1960年代から知られていた長寿命状態の反陽子版である。本研究の分子的He^+X^-がまさにこの長寿命状態である。
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