分子の構造や反応機構を明らかにするために、非経験的分子軌道法は非常に強力な手段であるが、巨大な生体高分子の系に非経験的分子軌道法をそのまま適用することはできない。生体高分子は、いくつかの基本ユニットから成り立っている。そこで、まず、生体高分子のモデル化合物間の相互作用エネルギーを非経験的分子軌道法を用いて計算する。次に、それを参照データとして用いて、原子間の距離を変数とするポテンシャルのパラメーターを、最小二乗法を用いてフィットさせることによって得る。が得られれば、それは、巨大な生体高分子の系に容易に適用でき、さらに、それを用いて計算した結果は、非経験的分子軌道法によって計算した結果と同程度の信頼性を持っている。このような性質を持つポテンシャルを用いて生体系に 分子動力学を適用することによって、核酸や蛋白質等の生体高分子の構造や、生体高分子が互いに特異的に認識する機構についての理解を深めることができる。このような目的をもって、非経験的分子軌道法による量子化学計算に基づいて生体系一般に汎用性をもって使用できるポテンシャル系の導出を進めている。 今年度は、これまでに得ているポデンシャル系に金属イオンのパラメーターを追加するために、生体高分子のモデル化合物と金属カチオンの間のいろいろなコンフォメーションにおける相互作用エネルギーを、非経験的分子軌道法によって求めた。 また、生体高分子は実際には水溶液中に存在する、そこで、水溶液中におけるペプチドの構造、および、その周辺の水の構造についての分子動力学法による計算を、これまでに得たポテンシャルを用いて行った。その結果、水溶液中において、生体高分子とその周辺の水分子とが水素結合系を形成して構造をつくっている様子が見出だされた。
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