前年度には実験の重心が動作模倣からチンパンジーの身体像へと移動した。身体像の実験ではレイザーディスクとタッチパネルのシステムを用いて、かれらの顔面、頭部の知覚を検討した。課題は遅延見本合わせで、見本刺激は実験者が頭、額、眼、頬、鼻、口、顎の1ケ所を指さしている映像である。2秒の遅延の後にテスト刺激として実験者の顔面、頭部が提示され、指さされた部位への反応が正解であった。テスト刺激の位置を変えるだけで成績が低下し、かれらの身体像の明瞭さについては疑問を示す結果となった。 今年度はテスト刺激を実験者以外のヒト、チンパンジーに変えた。成績はそれぞれ74%、44%に低下したが、反応を細かく分析すると、比較的よい転移があったと云ってよい。とくにチンパンジーでは耳の位置が高くなるが、反応はそれに従って上方へ移動していた。ただしより下方に移動する口、顎では成績が著しく低下した。この結果はチンパンジーの身体像の明瞭さに正、負両方の評価を下すことにつながる。 次に見本刺激を実験者の映像から実物へと変化した。第1セッションの結果はチャスレベル以下であった。誤反応への修正法を導入することにより徐々に成績は改善し、19セッションで学習が成立した。この結果は、チンパンジーが上記の映像見本刺激の課題を、身体像のみに基づいて解決しているのではないことを示唆する。 最後に見本刺激とテスト刺激の位置を回転させた。条件1では見本刺激は正立、テスト刺激は45度単位で回転した。条件2では見本刺激が回転し、テスト刺激は正立であった。条件3では見本、テスト両刺激が回転した。その結果条件1、2では±45度を超えると成績が低下した。この結果はかれらの反応が身体像に基づかず、個別的な見本ーテスト部位関係によることを示唆し、身体像が明瞭でないことを示唆した。
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