本研究では、運動前野に運動がモデュール状に再現されているかどうかを、可逆的化学破壊法(ムシモールの局所注入法)を用いて解析した。まず、2頭のサルに遅延を含む3方向への遅延リーチング(DR)課題を訓練した。この課題では、サルは2-5秒の遅延期のあとに、その前に提示された左、上または右の手がかり刺激の位置にもとづいて、左、上または右のターゲットレバーに手を伸ばすことが課される。このDR課題では、手がかり刺激の位置の記憶にもとづくリーチングが必要である。コントロール課題として、遅延期の間に手がかり刺激がつき続ける課題(VR)も訓練した。この場合、サルは視覚刺激にもとづくリーチングを行えばよい。サルがこれらの課題を行なっている際に、ムシモールを微量(3μ1以下)、運動前野の様々な部位へ局所注入して、課題遂行に対する効果を調べた。データの解析とマッピングの表示には、高速なコンピューター(エプソン、PC-486GR-式、設備備品として購入)を用いた。計86ケ所の注入部位のうち、ごく限られた部位、計8ケ所での注入で、リーチングの方向を間違うエラーが引き起こされた。各注入後のエラーは左右、上のリーチングのうち、ある1方向へのリーチングで主に起き、その頻度はVRよりもDR課題で有意に高かった。一方、反応時間とリーチング時間はともに有意な増加を示さなかった。筋活動にもはっきりした変化は認められなかった。エラーが起きた部位は、運動前野の背則部に限局しており、異なる方向の試行でのエラーは異なる局所部位への注入で引き起こされた。これらの結果は、異なる方向へのリーチング、特に記憶に基づリーチングが運動前野の背側部にモデュラーに再現されていることを示唆する。今後はこの仮説を検証する研究を進めつつ、運動前野でのこうしたモデュラー状再現の変動に関しての研究も展開したいと考えている。
|