筋骨格系では、屈筋・伸筋をともに弛緩させれば、関節は柔らかく外部から自由に動かせる。述に、屈筋・伸筋を同時に収縮させて関節を非常にかたくすることもできる。生体運動系は、この筋の可変粘弾性に、冗長自由度を利用した骨格系の姿勢変化、伸張反射に代表される脊髄のパラメータ調節機構を併用して、身体全体や四肢の運動インピーダンス(スティフネス/コンプライアンス、粘性、慣性の総称)を巧妙に調節している。しかも、ものに手を伸ばすとき、紙コップと大ジョッキでは、腕や手首のかたさ・姿勢をあらかじめ変える。すなわち、身体の自由度や運動インピーダンスは、動作内容、対象物の特性(かたさ、重さ、形など)に対応して前もって設定されている。このような拘束運動におけるヒトの運動制御方策をインピーダンス調節の観点から解明することを目的として、本研究では、手先スティフネスだけでなく、粘性や慣性も含めた手先インピーダンスを短時間で推定する手法を開発し、位置制御中の手先インピーダンスを推定した. 実験では、二関節平面型のダイレクト・ドライブ・ロボットにより被験者の手先に強制的に変位を加えた.被験者をロボットの正面に座らせ、ロボットの先端に取り付けた棒を握らせた.被験者には棒を現在位置に維持するよう指示して位置制御を行わせ、その作業中に被験者の手先にロボットから強制変位を加えた.ロボット先端の棒には6軸力センサを取り付け、被験者がロボットに加える力を測定した.その結果、1)手先慣性行列が力学モデルから計算とた手先の等価慣性と一致すること、2)手先スティフネス楕円体の方向はMussa-lvaldiらの実験結果と一致するが、大きさはかなり小さいこと、3)手先粘性楕円体の方向が手先スティフネスと類似していることを明らかになった。
|