ラット大脳皮質味覚ニューロンはグルタミン酸感受性をもっていることは以前我々が報告した。一方、P物質やカルシトニン遺伝子関連ペプチドCGRPを含有するニューロンが舌から大脳皮質に至る味覚伝導路に沿って分布し、殊にCGRP含有繊維は味覚野腹側部DI野に多く、CGRP結合ニューロンは背側部GI野に多いことが知られている。本研究では、ウレタンで麻酔したラットの大脳皮質味覚野から多連微小電極でニューロンを記録し、種々の薬物を微小電気泳動的に記録ニューロンに与え、次のことを調べた。味覚入力を受けるグルタミン酸受容体はAP-5で遮断されるNMDA型か、あるいはCNQXで遮断されるnon-NMDA型か。皮質味覚野ニューロンのP物質-CGRP感受性ニューロンの分布と味覚情報処理に対するこれらペプチドの作用について、の2点である。結果は以下の通りである。1.大脳皮質味覚ニューロンの70%はAP-5とCNQXの両者で味応答が消失し、20%はいずれか一方で、10%は両者とも無効であった。このことは、グルタミン酸が味覚入力の伝達物質として使用され、NMDAおよびnon-NMDA両型が関与していることを示している。2.P物質は短潜時で立ち上がりの早い応答を生じ、CGRPは長潜時で緩やかな応答を示した。P物質に対し味覚ニューロンの約50-60%、非味覚ニューロンの約40%がGI野、DI野の区別無く感受性をもち、その90%は興奮性であった。CGRPに対してはGI野、DI野とも非味覚ニューロンの約35%、味覚ニューロンはGI野で60%、DI野で20%が興奮性に応答した。P物質含有ニューロンの分布とP物質感受性ニューロンの分布、CGRP感受性ニューロンの分布とCGRP結合ニューロンの分布は一致した。P物質CGRP投与で四基本味に対する味応答プロフィールが変化するニューロンが見られ、味覚野に於ける情報処理を修飾する所見が得られた。
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