研究概要 |
背景と目的:木村らは大脳基底核の線条体のニューロンの示す感覚応答や身体運動に関連する活動は,感覚刺激のもつ物理的な性質や運動のパラメーターとの関係は弱く、刺激や運動などの事象がどのような状況で起こるかに強く依存することを報告してきた(文献1,2,3).例えば,サルに3つの押しボタンを順番に手で抑える運動を,感覚刺激誘導モードで,自己始動モードそして記憶依存モードで行わせ,線条体の被殻・尾状核のニューロンの活動を調べると,3つの運動モードのいずれでも活動するのではなく,いずれかのモードでは営動するが他のモードでは活動しないという特徴が明らかになった(文献1).本年度の重点研究の目的には上記3つのモードの運動を行っているサルの被殻と尾状核の機能を一時的に遮断することによって,被殻と尾状核の運動の機序における役割を知ることである. 方法と結果:GABA agonistであるMuscimolの局所注入によって被殻と尾状核の機能を一時的に遮断した結果,学習した3つの輸動課題に選択的に障害が現れた.すなわち,記憶誘導モードでは輸動反応時間が延長して記憶に依存した予測的な運動が不可能となり,運動の軌道の乱れが増大し,運動の順序を間違った試行が多く現れた.これに対して視覚誘導モードでは反応時間に変化はなく,自己始動モードにも共通して軌道の乱れも少なかった. 考察:得られた結果は「大脳基底核は運動のパラメーター制御やスキルの向上等に関与するのではなく,記憶に依存して予測的な運動を行うなど,習得している運動レパートリーの中から特定の運動せ活性化し,他を抑制する」という仮説せ支持する.これは線条体のニューロン活動が強い状況依存生を持つことと良く合致する.
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