研究対象は大きく二つに分けられる。一つはHodgkin-Huxleuタイプの興奮膜モデルに基づいて活動電位波形を再構成し、興奮の伝播特性を算出するためのミクロなモデルであり、一つは全心臓レベルの興奮伝播過程をシミュレーションするマイクロモデルである。 ミクロモデルに関しては、興奮膜モデルとバイドメインモデルを組み合わせて任意次元で成立する興奮伝播の基礎方程式を導き、この非線形編微分方程式を数値的に解くためのプログラムを開発した。この数値解法は細胞内領域と細胞外領域で導電率の非等方性が異なる場合も有効である。高カリウム溶液で不活性化した領域を含め2次元系での計算結果は動物実験の結果と良く対応した。計算機の処理能力が2桁程度向上すれば3次元系も扱えるようになる。固有心筋を表すBRモデルでもプルキンエ線維に対応するMNTモデルでも、興奮伝播繁度や活動電位持続時間の刺激間隔依存性は実際よりもかなり小さく、膜モデルを変えない限り心細動は発生し難いことが分かった。 マクロモデルに関しては平成2年度の助成金で開発した四面体分割心臓モデルに改良を加えた。前回までは興奮波面を三角分割し、三角形の各頂点が微小時間後に何処まで移動するのかを頂点位置での伝播特性から計算し、これを繰り返して興奮伝播過程をシミュレートしていた。この手法では衝突などによって波面の一部が消失する過程が扱いにくい。ところで、興奮は伝播に要する時間が最小であるような経路を伝播する。そこで、心臓内に設定した多数の節点を結んでネットワークを構成し、興奮伝播特性から計算される各節点間の興奮伝播時間をそれらの節点間の距離と見做せば、ネットワーク上の最短経路を見い出すダイクストラ法を応用して興奮伝播経路が計算できる。こうして多心拍の扱いが容易となり、心細動のシミューレーションも可能になっている。
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