発生過程における細胞の機能分化は、どのような転写制御因子群がどの様にしてその細胞内で準備され、いかにして特異的な遺伝子群を発現させしむるかによって、その骨格が決定ずけられるものと考えられる。このような視点から、本研究では、細胞の分化・増殖に深くかかわる転写制御因子の一つとしてAP-1に注目し、特に、トランスドミナントに機能してAP-1のDNA結合活性を抑制するFos変異体(supfos-1の産物)をマウスの受精卵およびニワトリの初代培養系に導入し、発生・増殖・癌化に及ぼすsupfos-1の効果を詳しく検討することに焦点を絞って以下の結果を得た。 1.supfos-1を発現量の強い、RSVのLTRプロモーターの下流に接続したプラスミドを作製し、これをマウス受精卵にマイクロインジェクション法で導入した。これまでに4系列のトランスジェニックマウスを得ることができたが、これまでのところ野生株と大きな違いは検出されてはいない。現在、supfos-1のmRNAの組織ごとの発現様式を詳細に解析中である。またトランスジェニックマウスの皮膚に対するTPA添付実験を行い、上皮細胞の過形成、パピローマ形成に対する抵抗性を獲得したか否かを検定している。 2.我々はすでにsupfos-1を効率良く細胞内で発現する複製能を完備したウイルスベクターを作製した。このウスルスベクターが、どれほど広汎にそのAP-1活性を阻害しているのかを検定する為にc-fos、fra-1、fra-2の発現により軟寒天下でも増殖能を獲得した細胞(CEF)に、supfos-1を二重感染法により導入するとこの活性を抑圧し、このトランスドミナントサプレッサーがc-jun以外にfosファミリー遺伝子にも適用可能であることが明かとなった。
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