研究概要 |
我々の研究目的は,発がんに関与する遺伝子を単離し,その構造・機能と発がんとの関係を明らかにすることである。 本年度は,まず第一にEGF受容体からのシグナル伝達に関して解析した。これまでの報告では,GAP複合体やフォスフォリパーゼCr(PLCr)が活性化EGF受容体によりチロシンリン酸化を受け,シグナル伝達し,重要な役割を果たす可能性が考えられてきた。我々はEGF受容体C末欠失変異DEL1011や,さらに変異を導入したDEL1011+F992など,自己リン酸化部位を除いた変異体を作成して検討したところ,これらではDNA合成能やトランスフォーム能はまだ十分残っているにもかかわらず,GAP,PLCrのチロシンリン酸化は認められなかった。このことは,従来の予想と異なり,GAP,PLCr以外の重要な基質の存在を強く示唆する。 第二に,我々の単離した新しいチロシンキナーゼFltについて解析した。肝組機をもちい,その発現部位を詳しく詳ベた結果,肝実質細胞にはほとんど発現がなく,類洞壁内皮細胞画分に強い発現を認めた。さらに,Fltのリガンドの1つと考えられるVEGF(Vascular Endothel Growth Factor)の類洞壁内皮細胞に対する作用を調ベたところ,著明な増殖刺激作用が認められ,VEGFなしではこれらの細胞は速かに死滅した。従って,Flt/VEGF系は肝類洞壁内皮細胞の増殖ばかりでなく,維持にも重要な役割を果たすと考えられる。さらに,予備的結果では多くの腫瘍がVEGFを産生していることから,この系は腫瘍血管形成にも重要であることが強く示唆される。
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