研究概要 |
HTLV-1はひとに感染し,成人T細胞白血病(ATL)を発症し,あるいは神経症HAMを起こすヒトレトロウイルスである。ヒにおける発がんを直接解析しそれらの治療や予防に供することを目的として,このウイルスによる細胞の増殖誘導およびがん化桟構について解析した。HTLV-1の制御因子であるTaxはウイルスや細胞の遺伝子の転写を活性化することから,白血病発症にかかわるものと考えられる。TaxはHTLV-1の21塩基エンハンサー,IL-2RαのNF-RB結合部位,c-fosのCArGボックスを活性化しこれらを含む多くの遺伝子の転写を活性化する。しかしこれらエンハンサー配列には直接結合しない。 本年度の研究でTaxこれらエンハンサー結合因子と相互作用することによってエンハンサーDNAに会合することを見出した。すなわち,21塩基エンハンサーに結合するCREBあるいはCREM蛋白,NF-RB部位に結合するNF-RBp50の前験体であるp105,CArGボックス結合因子であるSRFに結合することを免疫沈降法,DNA結合蛋白の解析によって明らかにした。DNAの変異体,Taxの変異体を用いた解析から,これらのTax-蛋白相互作用がTaxによるトランス活性化に重要な役割を果たすことを示唆した。この結果から,Taxが細胞のDNA結合因子を介するエンハンサーDNAへの会合が,転写活性化の機構であることを提昌した。このエンハンサーDNA上でのTaxと細胞転写因子の結合が,どのようにして転写を活性化するかと云う問題は,転写制御の分子レベルでの解明にとっても極めて興味ある点である。
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