研究概要 |
我々の研究目的は,Ras蛋白質とその標的蛋白質との相互作用の機構の解析であり,昨年度までは標的蛋白質として唯一判明していた出芽酵母アデニル酸シクラーゼのみを対象としていたが,本年度になり高等動物ではRaf蛋白質がRasの標的蛋白質である可能性が判明したので,Raf蛋白質との相互作用の機構も解析した。 1.酵母アデニル酸シクラーゼとRafの間にはアミノ酸配列の類似性が見られないので,両者の間でRas蛋白質上の結合認識部位が異なっている可能性について解析した。まず、ヒトRaf蛋白質制御領域と出芽酵母アデニル酸シクラーゼのleucine-rich repeats領域が、Ras蛋白質によるシクラーゼの試験管内活性化を競合阻害する事を発見し、その反応速度論的解析から両者がRasと直接的結合する事を証明し、Rasに対する解離定数を求め得た。また、両者の結合にRasの翻訳後修飾に対する要求性において大きな違いが有る事を発見した。 2.酵母アデニル酸シクラーゼ結合蛋白質CAPの機能を解析し、正常型Rasとシクラーゼの相互作用には必要ではないが、活性型Rasによる異常な表現形質の発現には必要である事を示した。CAPをシクラーゼから引き離す事により、正常型Rasの作用に影響を与えずに活性型Rasの作用を抑制できる事を証明した。 3.我々が線虫C.elegansにおいて,出芽酵母アデニル酸シクラーゼのRas蛋白質結合部位leucine-rich repeatsのホモログとして同定したゲルゾリン類似蛋白質の構造および機能解析を行った。この蛋白質がRas蛋白質と結合するかを調べた所、未だpreliminaryではあるがGTP結合型Ras蛋白質と結合する事がわかった。また、この蛋白質は兎アクチンとCaイオン非依存性に結合した。この結果から、この蛋白質が線虫におけるRasの標的蛋白質の一つで細胞骨格の調節に関与している可能性を考え、遺伝学的に機能解析を行っている。
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