研究概要 |
大腸菌硝酸呼吸遺伝子オペロンの嫌気的条件下での発現制御には,各サブオペロンのプロモーター上流の調節領域にそれぞれ独立に作用する2つの転写促進因子が不可欠である。1つは,分子状酸素センサーであると同時に嫌気呼吸系遺伝子群の転写活性化因子であるFNRであり,他は硝酸イオンに対する二成分調節系:NarX/Lにおける転写調節因子であるNarLタンパクである。それら両調節タンパクからなる二成分系によるnarオペロンの転写調節の分子機構と,両因子のそれぞれが認識するDNA部域の高次構造の基本骨格の推定とを目標とした平成4年度の研究成果は以下の通りである。 1.家兎抗血清を用いたウエスタンブロット法で,口腔内細菌群の中で硝酸呼吸を営む通性嫌気性菌,Actinobacillus actinomysetemomitans(若年性歯周病原因菌)にFNR様タンパクが作動する事実を見出した(論文(1,3))。 2.硝酸イオンに対するセンサータンパクであるNarXを含む膜標品を用いて,その目己リン酸化と調節タンパクNarLへのリン酸基転移の両反応が,他の二成分調節系と同様のモードで起こることを^<31>P-NMRにより示した(論文(4)) 3.ゲルシフト法によるFNRのDNA結合部域(いわゆるanaero-box配列)との反応の解析では,調節領域を含むnarX,narCHJI,fnrの各プロモーター・フラグメントに対するFNR単独での特異的な結合は認められなかったが,RNAポリメラーゼのホロ酵素あるいはコア酵素との共存下では結合し,かつポリメラーゼの結合親和性を一桁高める事実を解明した(論文(2))。 4.FNRによる転写自己抑制をテストしたin vitro転写実験で,fnrのプロモーター域では約100塩基間隔で2つのFNR結合部位が,narX/Kのプロモーター域では約210塩基間に3つのFNR結合部位が設定されるときに,抑制的な効果が説明可能で,DNAの誘導湾曲構造の形成が不可欠であると示唆された(論文(2))。
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