本研究の目的はウニ卵細胞を用い、(1)染色体運動の機構を新しい方法で単離した分裂装置を用いて明らかにすること、更に(2)動物細胞の細胞質分裂を担う収縮環の形成がどのようにしておこるかを明らかにすることである。(1)に関しては極一染色体微小管が、微量のカルシウムイオンによって短縮し、染色体の分離はみられないものの極と極の距離が短縮するという結果が得られた。モーター蛋白質として精子鞭毛ダイニン、脳MAPIC、ダイナミンの効果を調べたが、顕著な効果はみられなかった。従って運動に必要なモーター蛋白質は既に微小管に結合している可能性がある。またフォスファターゼの効果もみられなかった、従って、染色体の運動には少くとも微小管の脱重合が必要であることは分かったが、モーター蛋白質の関与については今後抗体の使用などの方法を用いる必要がある。(2)に関しては、これまで未受精卵に対し蛋白質フォスファターゼ阻害物質カリキュリンAが分裂様形態変化を誘導することを明らかにしたが、今年度は、受精卵にカリキュリンAを与えるとアメーバ運動を誘発することを見い出した。同様の運動は低濃度のカリキュリンAで未受精卵にもおこり、また同じくフォスファターゼ阻害剤トートマイシンでも、更に、蛋白質キナーゼCの花性化をおこすフォルボールエステルTPAでも起こることがわかった。この運動は様々な蛋白質キナーゼ阻害剤で阻害されたので蛋白質リン酸化が関与していることが確認された。アメーバ運動をおこす条件で蛋白質キナーゼを更に活性化すると、分裂様運動がおこったので、アメーバ運動自体も細胞質分裂に関連した出来事であると考えられる。この時のアクチン繊維の分布を観察したところアメーバ運動の収縮側に繊維構造がみられ、弛緩側にはみられなかった。来年度はアメーバ運動、分裂様運動に関連しているはずのリン酸化蛋白質の実体を追求していきたいと考えている。
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