研究概要 |
転写制御因子VP1は、種子胚の成熟過程でABAの制御下にある一連の遺伝子群の発現を制御している。本研究では、イネVP1(OsVP1)による転写制御のメカニズムを明らかにするため、VP1の標的遺伝子のひとつと考えられるEm遺伝子のcDNAおよびゲノミッククローンをイネより単離し、その塩基配列を決定した。OsEmのプロモーターとGUS遺伝子の融合遺伝子(OsEm-GUS)を作製し、イネ培養細胞プロトプラストで一過性の発現を調べたところ、その発現はABAによって活性化された。さらに、OsEm-GUSの発現は、同時に発現させたOsVplcDNAによって5-6倍、トランスに活性化されたことから、確かにOsEmがVP1の標的遺伝子であることが明らかとなった。次に、この発現系を用い、OsEm-GUSのプロモーターに様々な欠失を加えたものについて、ABAおよびVP1による活性化を調べた。OsEmの上流域を-502から-176まで欠失させるとABAによる活性化にはほとんど影響なかったが、OsVP1による活性化の程度は減少した。さらに-140まで欠失させるとABA,OsVP1どちらによる活性化も消失した。また-502まで持つプロモーターでは、OsVP1はABAによる活性化に対して相乗効果を示したが、-140までのプロモーターでは相乗効果は見られず、むしろ抑制的に働いた。これらの結果は-176より上流と、-176と-140の間に2ケ所VPREが存在しており、上流側のVPREはABAのシグナルとは独立に転写活性化に寄与している可能性を示唆している。-176と-140の間には他のLEA遺伝子で同定されている、ACGTGをコアとするABRE配列様の配列が存在していた。そこでこのABRE様配列に2塩基置換を加えた変異体を作製したところ、VP1による活性化は失われた。このことからABAのシグナルによって制御される因子とVP1がこの配列上で直接相互作用する可能性が考えられた。
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