根における遺伝子発現制御と根の特定の細胞の機能を明らかにすることを目的に、以下の実験を行った。 根特異的発現を示す遺伝子としてトロパンアルカロイド生合成酵素ヒヨスチアミン6β水酸化酵素(H6H)の遺伝子をクローニングした。ヒヨス(Hyoscyamus niger)のH6H遺伝子の5'上流領域約0.8kbをGUSレポーター遺伝子に繋ぎ、アグロバクテリウム形質転換系を用いてヒヨス、ベラドンナ(Atropa belladonna)及びタバコに導入した。タバコは類縁アルカロイドであるニコチンを産生するがH6H遺伝子はもたない。ベラドンナはH6H遺伝子を持つが、この遺伝子の発現レベルは低い。ヒヨスのH6H遺伝子はベラドンナに較べ高発現であり、真にhomologousなホストである。形質転換植物または形質転換毛状根においてGUS活性の発現している細胞を組織化学的染色により同定したところ、タバコとベラドンナでは根端(根冠を除く)が、ヒヨスでは根端と内鞘細胞が特異的に染色された。このことは、ヒヨスとその他の植物ではヒヨスH6Hプロモーターに働くトランス因子の質、量、分布のいずれかが異なることを示唆している。5'欠失変異H6Hプロモーターを用いた同様の解析により、ベラドンナとタバコにおける根端での発現は反復配列を含む-684から-423のDNA配列を削除すると喪失するが、ヒヨスにおける根端と内鞘細胞での発現はATに富む領域を含む-423より下流のDNA配列の存在に依存していた。 さらに、重力・光・物理的刺激に対しそのシグナルを受容し、伝達する機構を備えていると考えられる根冠組織で特異的に発現している遺伝子をdifferential 粕screening法によりクローニングする事を試みている。トウモロコシの根冠組織とその他の根の部分を別々に集め、それぞれから単離したmRNAを用いてD.Brownらが開発したphtoprobe biotinとPCRを用いたcDNA subtractionを行い、根冠特異的なcDNAクローンを単離する予定である。タバコのニコチン変異株を用いた予備実験により、cDNA subtraction法が期待どうりに機能することが判明した。
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