MPP^+はMPTPよりもはるかに低濃度(10^<-5>M)でミトコンドリアNADH-ユビキノン還元酵素(複合体I)を阻害することが知られている。このMPP^+の阻害は破壊あるいは可溶化されたミトコンドリアでも見られるが、この場合はしかし10^<-3>M程度の濃度が必要である。この違いが生じるのは、無傷なミトコンドリアは約100mV(内部負)の膜電位を形成しているので、MPP^+が膜透過性カチオンとして内部負の膜電位にひかれて電気泳動的に濃縮され、ミトコンドリアマトリクスでは10^<-3>M程度に濃縮されて阻害効果を現わすためと考えられる。 このことを確かめるため、MPP^+のミトコンドリア内への輸送と複合体Iの活性阻害に対するモネンシン(H^+/K^+・Na^+の交換イオノフォア)、バリノマイシン(K^+の単独イオノフォア)、及びMPP^+の膜透過を促進すると考えられるTPB^-(テトラフェニールボロンアニオン)の添加効果を調べた。MPP^+のミトコンドリア内への輸送は、TPB^-を含ませた塩化ビニール膜をイオン特違性膜とする電極を作成し、外液のMPP^+濃度の減少により測定した。MPP^+による複合体Iの活性の阻害は、酸素電極を用いて酸素消費により測定した。 外液のMPP^+濃度が500μMの時には複合体Iの阻害は見られないが、2.5μMのTBP^-を加えると顕著な活性阻害が見られた。この時のMPP^+輸送を見てみると予想されたようにMPP^+の取り込みはTBP^-の添加により著しく促進されていた。このMPP^+の取り込みは呼吸基質であるコハク酸や、H^+濃度勾配を解消して膜電位を増大するモネンシンの添加による促進され、呼吸鎖の阻害剤であるKCNや膜電位を解消するバリノマイシンにより阻害された。 以上の結果は呼吸によってミトコンドリア内外に形成される膜電位により、MPP^+が電気泳動的にミトコンドリア内に輸内され、複合体Iの活性を阻害する濃度まで濃縮されるという作業仮説を裏付けるものと言える。今後は他のパーキンソン病類似病態誘因物質についても同様の測定を行ない、呼吸な膜電位との関係を明らかにしていく。
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