タンパク質のミトコンドリア膜透過に伴う高次構造変化を制御する因子である、熱ショックタンパク質hsp70の機能の局在部位特異性を、in vivoとin vitroで明らかにした。ミトコンドリアのhsp70(mhsp70)をサイトゾルに局在するように遺伝子レベルで改変し、サイトゾルのhsp70(chsp70)の発現を制御できるようにした酵母株に導入した。この形質転換株は、chsp70の発現を停止させると増殖できなくなり、mhsp70はたとえサイトゾルに局在させても、chsp70の機能を代替できないことが明らかになった。hsp70は二つのドメインからなるドメイン構造をとっているが、chsp70とmhsp70の各々二つのドメインのうち一つを入れ替えたキメラタンパク質でも、やはりchsp70の機能を代替することはできなかった。コムギ胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク合成系で翻訳した前駆体タンパク質は、単離したミトコンドリアに加えても、chsp70が存在しないとミトコンドリア内部に取り込まれない。このin vitroの実験系を用いて、chsp70の代わりにmhsp70が取り込みを促進できるかどうか調べた。その結果、in vitroでもmhsp70はchsp70の代わりの働きをすることはできないことが分かった。したがって、mhsp70とchsp70は、各々ミトコンドリアの中と外と働くべき場所が決まっており、互いに交換はできないことが明らかになった。このhsp70の局在部位特異性を決めている因子として、例えばサイトゾルのYdjlp等の可能性があるので、大腸菌からYdjlpを大量に精製し、in vitroの実験系に加えて、その影響を検討している。
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