アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損重症複合免疫不全症(SCID)の本邦1症例は、ADA対立遺伝子の一方にイントロンの7の5'側第一塩基の突然変異があり、これに原因したスプライシング異常によるエキソン7欠失mRNAを発現している。昨年度報告したこの症例の不死化Bリンパ芽球様細胞(BLC)の異常遺伝子を相同組み替えにより修復実験をするために、導入遺伝子の調製をし、電気穿孔法での移入条件の検討を行ったが、期待した結果がまだ得られていない。研究を継続する予定である。 一方、ADA欠損SCIDの遺伝子治療において再構築すべき細胞量を知る手掛かりを得るために、ADA欠損BLCとADA陽性線推穿細胞を混合培養して、後者が前者の代謝異常を補正して増殖を促進する機構の解析を行った。ADA欠損BLCは無血清培地で増殖するが、100μMデオキシアデノシン(dAR)を添加した培地では培養4日後に死滅する。ADA欠損BLC細胞数に対する線維芽細胞数の比(細胞混合比)が1:20以下ではBLCは増殖しなかった。1:10以上でBLCは増殖した。混合培養4時間後の培地dAR濃度は線維芽細胞数の増加に応じて低下し、細胞混合比1:10で約88%に低下し、1:2で半減した。一方、培養4時間後のBLC内dATP量は細胞混合比1:10で急に減少し、約半減した。細胞混合比が1:10以上では、LBC細胞内dARは細胞外に出て、綿維芽細胞に取り込まれて代謝される。細胞混合比が1:20以下では線維芽細胞によりdARの代謝が不十分であるために、BLC細胞内にdARが蓄積し、デオキシアデノシンキナーゼ活性の関与によりdATPが異常に蓄積して細胞増殖を阻害する。これには本酵素の基質親和性が重要な要因となっていることが推測された。
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