本年度の最も大きな成果は、動物細胞への遺伝子導入活性を持つ粒子の完全精製とその導入活性の定応化に成功したことである(中西・芦原、投稿準備中)。遺伝子導入活性に持つ粒子は、直径200nmの一枚膜を持ち内部にDNA(10mg/m1)を封入したリポソーム(比重約1.02)を、紫外線で不活化したセンダイウイルス(比重約1.17)と37℃で反応させたあと、蔗糖密度勾配遠心法で精製した。物質導入できる活性は比重1.09から1.13の分画に認められた。この分画を電子顕微鏡で観察すると、直径250nmの脂質1枚膜を持ち、内部が空洞で外部にウイルスの外膜タンパク質のスパイクを持った構造が観察された。これはレーザー光散乱による粒子径の解析と一致した。また精製粒子はセンダイウイルスと同等のシアルダーゼ活性と赤血球凝集活性を持ち、粒子の内部に封入された物質の60%以上は細胞膜に結合する活性を持っていた。これに対して単純なリポソームに封入された物質は、10%以下しか細胞に吸着するきとはできなかった。こと副子にハイグロマイシンB耐性遺伝子を組み込んだEBVベクターDNA(4分子/粒子)やCRM22タンパク質を封入して細胞への物質導入活性を測定した結果、この粒子の内容物が直接細胞質へ導入されていること、またDNAが核に導入されて発現する効率は10^7/m1/OD_<540>、タンパク質を細胞質に導入する効率は10^<10>/ml/OD_<540>であるという結果を得た。このことからこの粒子の細胞質への物質導入効率はセンダイウイルスの感染能と同等で非常に高いこと、また細胞質に導入されたDNAが核へ到達できる確率は約10^<-3>であること、このような遺伝子導入粒子をヒト細胞で安定に存在できるEBVベクターと組み合わせると、ヒトの遺伝子治療に必要だとされる安定な遺伝子導入の効率(10^6/ml)を達成していることが確認できた。
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