研究概要 |
遺伝性メトヘモグロビン血症は、患者組識中のNADH-シトクロムb_5還元酵素(b_5R)の欠損によって発症する常染色体劣遺伝病であり、これまで3型に分類されてきた。すなわち、赤血球の可溶性b_5Rのみが欠損し軽いチアノーゼを呈する「赤血球型」、赤血球のb_5R以外に全身組識のミクロソーム膜に結合したb_5Rも欠損し、チアノーゼ以外に精神遅滞や神経障害を伴う「全身型」、および赤血球や白血球などの血球細胞のb_5Rは欠損するがその他の組識では欠損していないとされている「血液細胞型」である。 本年度は黒部で発見された「血液細胞型」について解析した。本疾患については1985年に谷島らにより血液細胞のb_5Rが欠損しているために発症すると報告された。一方我々は最近本疾患の遺伝子を解析し、Leu148→Proの変異を見い出した。そこで我々は部位特異的変異法を用いてcDNAに変異を導入して2種類の変異酵素Leu148→Pro,Leu148→Alaを作り野生型酵素と比較検討した。両変異酵素のKm(NADH),Km(Cyt.b_5)はあまり変化しておらずLeu148→ProのKcatは野生型の60%、Leu148AlaのKcatは90%以上であった。しかし変異酵素を42℃で10分間加熱するとLeu148→Proでは15%に、Leu148→Alaでは85%に活性が低下した。このようにLeu148→Proは熱安定性は低下しているがKcatが野生型の60%を示す結果を得たので我々は患者の血液細胞および線維芽細胞の酵素活性を再検討したところ、谷島らの報告と異なり、いづれの細胞も野生型の約60%の活性を示した。またそれらの細胞について抗b_5R抗体を用いたウエスタンブロッティングを行なったところ各細胞内に正常細胞と同程度のb_5Rタンパクが含まれていることが明らかとなった。これらの結果から本症例は「血液細胞型」ではなくLeu148→Pro変異によって不安定になったb_5Rを持つ「赤血球型」であるとの結論に達した。
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