研究概要 |
トウモロコシの転移因子Acは4.6kbの因子で自ら転移するのに必要な転移酵素遺伝子を持っているが、大部分のDsは転移酵素遺伝子中に欠失を持った因子である。本研究ではAcやDsを含む種々のプラスミドベクターを異種植物のタバコやイネに導入、トランスジェニック植物体での、種々のAc/Ds誘導体の転移能や転移後の植物染色体上の挿入部位の構造解析を行い、導入転移因子の転移機構や植物染色体上でのDNA再編成、さらには植物遺伝子発現への影響などを解明せんとするものである。Acの転移酵素遺伝子とDsが脱離するとHm^rとなるようなhph遺伝子をイネ及びタバコのプロトプラストに同所に直接法で導入、Hm^r形質転換体を分離、トランスジェニック植物を作出して導入外来遺伝子の植物染色体への挿入を検討すると、(a)hphだけ、(b)hphとDs、(c)hphと転移酵素遺伝子、(d)hph、Ds、転移酵素遺伝子の三者を持つものに大別された。これらの内で(b)hphと4コピーのDs(Ds-a,b,c,d)だけをもつイネの一系統についてさらに詳細な構造解析を行った所、Ds-bとDs-cは導入したDsがそのままの構造で別々の染色体に挿入されており、各々8bpの標的重複も観察された。一方Ds-aとDs-dは、共にDs-bやDs-cとは異なる同一染色体上に互いに3kbだけ離れて挿入されており、両者とも非正統的組換え(illegitimate recombination)によると考えられるDNA再編成が観察された。Ds-aは内部に0.2kbの欠失があり変則的な標的重複を起こしていた。Ds-dは8bpの標的重複が観察されたが、その内部にはHm^r遺伝子を含む導入プラスミドの配列が挿入されており、このHm^r遺伝子内にはDsの脱離に伴って起こるフットプリントも存在していた。これらの結果は、Ac/Dsの転移はDNA複製と関連があり同一染色体上の近傍に転移するという従来の遺伝学手知見とは異なり、直接法により導入されたAc/Dsは一過性の発現により生じた転移酵素の作用により染色体上に挿入して、複製されなくても転移し得ることを示唆しているものと思われる。
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