本研究はヒヨドリバナ有性型・無性型の適応度にジェミニウイルスの感染がどのような影響を与えるかを解明することを目的として実施された。ヒヨドリバナにはジェミニウイルスの一種TLCVが特異的に感染する。感染率は無性型において有意に高いことが平成3年度までの研究でわかっている。本研究では、TLCVの感染をうけたヒヨドリバナ無性型の集団において、TLCV感染率の推移、およびTLCV感染がヒヨドリバナ無性型の生存・生長・繁殖に及ぼす影響を調査した。平成3年度に設置された常設調査区ではヒヨドリバナ無性型約300個体が番号札で標識されている。これらの個体の追跡調査を行った結果、TLCV感染率は1年間で35.3%から69.0%へと約2倍に増加した。TLCV感染率は1991年には大型個体ほど高かったが、1992年にはこの傾向は消失し、サイズに依存せずに高い率の感染が認められた。死亡率はTLCV非感染個体では21%、感染個体では65%で、感染によって約3倍に増加した。TLCV非感染個体では1年間で草丈が平均22.7cm増加したが、1992年に新たに感染した個体では平均2.7cm、1991年に感染していた個体では平均5.2cm草丈が減少した。感染によって生産量が低下するだけでなく、地下部の貯蔵物質の消費が起きることが示唆される。感染個体では繁殖開始サイズに到達しても繁殖しない効向があり、さらに感染した繁殖個体では非感染の繁殖個体よりも種子稔性が有意に低下した。 これらの結果から、ジェミニウイルスの感染はヒヨドリバナの適応度を著く低下させると結論される。一方、酵素多型およびPCRを用いたDNA多型の調査から、無性型集団は有性型集団に比べて遺伝的により均質であることが明らかになった。無性型集団における高い感染率はその遺伝的均質性に関係していることが示唆される。
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