本年度における申請研究の成果は、以下の通りである。 1.オナジマイマイとウスカワマイマイは、これまで植食性であると考えられてきた。しかし、本研究により、これら2種の陸産巻貝は、低密度条件下でも共食いと捕食を一定の頻度で行うことが実験的に証明された。 2.これらの同所的に生息する陸産巻貝について種間相互作用の効果を検出し、それらの生態学的意義を評価する目的で、置換実験(replacement experiment)を行った。その結果、以下の5点が確認された。(1)オナジマイマイはウスカワマイマイより早く成熟する。(2)共食い頻度と個体密度は、正の相関を示す。(3)捕食頻度は個体密度に依存して変化し、低密度の場合にオナジマイマイによるウスカワマイマイの捕食率が最も高い。(4)オナジマイマイは、ウスカワマイマイより高い頻度で共食いをする。(5)オナジマイマイの生存率は、同種個体のみと共存する場合よりウスカワマイマイと共存する場合に高い。すなわち、本実験条件下では、これら2種の間で干渉競争(interference competition)が生じ、オナジマイマイがウスカワマイマイに対して優位であることが明らかになった。 3.上記の実験において、アレロパシーによる成長阻害が検出された。これは、今回の研究対象とは系統的に大きく異なるアパラチアマイマイ科においてこれまでに検出されたアレロパシーによる干渉競争が、陸産巻貝において一般的に生じていることを示唆する結果として特筆に値する。しかも、劣位の種が成長阻害を破るだけではなく、優位のオナジマイマイは、捕食により利益を得ていなくても、ウスカワマイマイとの共存により成長が促進することが明らかである。これは、陸産巻貝におけるアレロパシーに関しては、全く新しい知見である。
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