研究概要 |
紅色細菌の光合成膜系では,ATP合成の駆動力となるプロトン濃度匂配は,3つのタンパク質(反応中心複合体,チトクロムbc_1複合体およびチトクロムc_2)の間の電子伝達による共役系によって生み出される。紅色細菌Rhodopse1domonas viridisでは,その反応中心複合体で立体構造が高分解能で解明されている。本研究では,この同じ紅色細菌からとられたチトクロムc_2と反応中心複合体との間の電子伝達反応の分子機構を,分子グラフィックスの手法を用いて解明した。 1.これまでX線結晶解析を行ってきたチトクロムc_2結晶の回折強度を,イメージングプレート回折計によって再び集積した。これによって,高分解能での回折データを得ることが可能になった。 2.分子置換法で解かれたこのチトクロムc_2の分子モデルを,分子動力学的精密化法(simulated annealing法)と立体化学的束縛下での結晶学的精密化法によって行い,最終分子モデルを完成した。 3.得られた立体構造に基づいて,このチトクロムc_2が電子を与えることによって光酸化状態を還元する反応中心複合体への電子伝達機構を,コンピュータグラフィックス上で検討した。この検討を行いやすくするため,チトクロムc_2と反応中心複合体の分子表面の静電ポテンシャルを計算した。チトクロムc_2のヘム近傍は正の電荷を帯びており,これに対応する負電荷の位置を反応中心複合体のチトクロムサブユニットの4つのヘム近傍で探した(電子はチトクロムc_2のヘムから反応中心複合体のチトクロムサブユニットの4つのヘムのどれかに伝達される)。その結果,光酸化されるバクテリオクロロフィル二量体に最も遠いヘムが,その可能性が高いことがわかった。グラフィックス上に組み上げた2つのタンパク質の結合モデルは構造上妥当なものであった。
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