バクテリアのべん毛モーターは、膜を介したイオンの流れを力学的な回転運動に変換する分子機械である。このイオン共役機構を明らかにするために、好アルカリ性細菌や海洋性ビブリオ菌の持つナトリウム・イオン駆動型のべん毛モーターが高等動物のナトリウム・チャネルの阻害剤であるアミロライドにより特異的に阻害されることを見いだしているので、この特徴を利用して解析を行った。 アミロライドは、通常の生育条件では菌の生育阻害も起こすので使用しにくい。しかし、培地をpH7にするとビブリオ菌の場合は生育阻害が起きないことを見いだした。この条件下でも、アミロライドの阻害作用はナトリウム・イオンと拮抗的であったことから、アミロライドはべん毛モーターのエネルギー変換ユニットのナトリウム・イオン結合部位で阻害を起こしていること、従って、エネルギー変換ユニットの変異株の分離に利用できることを示した。 アミロライドの誘導体の1つ、ヨードアミロライドは、紫外線照射によりエネルギー変換ユニット共在結合し、モーターの回転を不可逆的に阻害することを明らかにした。菌体当たり一本のべん毛を持つビブリオ菌での阻害効果の解析から、べん毛モーター当たり復数個のエネルギー変換ユニットの存在が明かとなった。この点をさらに確かにするために、好アルカリ性菌のテザード菌体を用いて、1個のべん毛モーターに注目しながら解析を進めている。 また、ビブリオ菌において、エレクトロ・ポレーション法による遺伝子伝達系の開発に功成した。この系を用いて、エネルギー変換ユニットの遺伝子のクローニングも試み、数個の候補クローンの分離に成功している。
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