脳内における老人斑形成には、アミロイド前駆体蛋白(APP)から、実際の沈着物であるβ蛋白に至る細胞内代謝過程が重要なカギを握ると考えられている。本研究では、軸索内輸送系と細胞分画法を併用して、細胞体、軸索、神経終末部などの各部位における神経細胞特有のAPP代謝経路とその調節機構を解明することを目的とし、本年度は、各部位におけるAPPおよびその断片の検索と同定、ならびに実験的輸送阻害の作成に関する検討を行い、以下の結果を得た。 1.ラット脳から細胞分画法により、ミエリン、シナプトソーム、リソソームなど各種の膜分画を得、各々に存在するAPPとその断片を検索した。β蛋白を含むと考えられるC末端側断片は高密度の膜分画ほど多く、特にリソソームに多量に含まれていた。リソソームにはまた、固有の6K断片が検出された。この6K断片は、単離リソソームを加温すると増加することから、リソソームにおける蛋白分解の結果、生じるものと考えられる。 2.ラット脊髄前角細胞ー坐骨神経運動繊維の系を用いて、β、β'-イミノジプロピオニトリル(IDPN)による軸索内輸送阻害と異常蓄積発生の時間経過を検討した。その結果、本来ニューロフィラメント(NF)蛋白のリン酸化が進行する近位部軸索において、IDPN投与後12時間〜1日で一過性にリン酸化が低下することが、輸送阻害と密接に関連することを見出した。また、IDPN中毒神経では、NF蛋白だけでなく、軸索特有の安定重合型微小管の輸送も阻害されており、老化神経に酷似した状況を呈することから、このような実験的輸送阻害系が、今後、細胞骨格の変性に伴うAPP輸送および代謝の変化を検討する上で有効な実験系となることが確認された。
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