研究概要 |
ホスホリパーゼC(PLC)は、さまざまな外界情報物質を受容し細胞内シグナルを産生する酵素である。本研究の目的はアルツハイマー病(AD)脳におけるPLCの病態について明らかにすることにある年齢,死後剖検までの時間に差を認めないAD脳と対照脳を対象とした。PLC活性は活性測定の基質として、soybean phosphatidylinositol(PI)および放射性ラベルのmyo-inositolを用いた。PLCアイソザイムについては、各アイソザイム(β,γ1,γ2,δ)に対する特異抗体を用いて、Western blot法および免疫組織化学で検討した。PI-specific PLC活性は、可溶性分画と顆粒性分画のいづれにおいても対照群とAD群間で有意な差は認められなかった。酵素活性のカルシウムおよびpH依存性も両群間で差は認められなかった。PLCアイソザイムのPLC-δが、ヒト脳組織で85kDaのタンパクとして認識されることを確認した。免疫組織化学的検討で、PLC-δが、AD脳の神経原線維変化、老人斑の変性した神経突起部およびニューロピルのcurly riberに異常に蓄積していることが判明した。他のPLCアイソザイムに対する抗体ではこれらの構造物は染色されなかった。連続切片を用いた光顕レベルの検討では、PLC-δと異常にリン酸化されたtauの沈着様式が極めて類似していることが示された。免疫電顕による検討では、神経原線維変化を有する同じニューロン内でもtauとPLC-δの沈着部位が異なることが示唆された。また、progressive supranuclear palsy患者剖検脳のtau陽性蓄積物質が抗PLC-δ抗体で陽染されることを確認し、神経原線維変化形成機序における異常なPLC-δ蓄積の関与が示唆された。
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