アルツハイマー病の病因として、アミロイドタンパク質前駆体(APP)に由来するβタンパク質の異常蓄積が考えられている。APPの代謝経路としては、βタンパク質の配列内で切断する「secretase系」と、各種の代謝産物を生じる「ライソゾーム系」が存在する。βタンパク質の異常蓄積の原因を追及するために、培養細胞でのAPPの代謝を検討した。 発現実験の容易なサル腎臓線維芽細胞由来のCOS細胞で部位特異的な変異を加えたAPPを発現させた。昨年来の研究によりsecretaseはAPPのアミノ酸配列ではなく膜からの立体構造を認識してAPPを切断していることが明かになっている。そこで細胞膜の内側に位置すると推定される3個連続したリジン残基Lys724-Lys-LysをGlu-Gluに変更したところ、変異APPはsecretaseによって切断されなくなったばかりでなく、本来ならば細胞内に存在するC末端まで、細胞表面に露出することが明らかになった。最近の研究では、正常状態でもある程度のβタンパク質が生成されることが確認されている。しかし、膜内に埋め込まれたβタンパク質のC末がどのように切断されるのかが疑問であった。今回の結果により、ある条件では、APP分子全体が膜から露出しうることが判明した。今後、さらにこの実験系によってβタンパク質の生成機構を解明していきたい。 アルツハイマー病の病変は脳に限局していることから、神経細胞特有のAPP代謝経路が存在する可能性がある。そこでヒト神経芽細胞腫由来の培養細胞(NB-1)でのAPPの代謝を検討した。このAPP cDNAを導入した細胞はdibtyl cAMPによって神経突起を伸張させるとAPPの発現が上昇するともに死滅した。このことから過剰のAPPを神経系へ分化した細胞は処理できなくなり、神経毒性となることが示唆された。引続き、APPの神経細胞での代謝と機能を検討していきたい。
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