研究概要 |
人補体成分factorBの存在下に、HIV特有の宿主細胞破壊性を免れて、ウイルス感染後のCD4^+T細胞がCD4^-T細胞となって救済される現象を、in vitroの実験系で見いだした。そのため、この救済現象がHIV感染固体においても認められるか否かを知るため、末梢血中CD4^-T細胞数をフローサイトメーターで検索した。また、同一個体からの血清については、ウサギ血球溶血反応によって、補体副経路の活性状態を測定し、問題のCD4^-T細胞数の多寡と補体活性との関連について比較検討した下記の成績を得た。 1.末梢血中CD4^-T細胞の検索:先ず、HIV感染者を、リンパ球数、CD4^+細胞数、CD4^+/CD8^+細胞比を指標にしてScore0,1(無症候期)、Score2(主にAIDS関連症候群)、Score3(主にAIDS)に分類した。問題のCD4^-T細胞数は、Score1並びにScore2に属する個体で有意に増加していた。しかし、AIDSへ移行すると、その消失が認められた。 2.末梢血CD4^-T細胞数と補体活性との関連:無症候期の内、CD4^+T細胞数の減少が認められる時期に至るScore1に属する個体では、CD4^-T細胞数の多寡と補体活性の強弱とはほぼ相関する結果を得た。また、感染が進行したScore2では、弱いながらも、その相関関係を保つと思われた。しかし、AIDSに至ったScore3の場合には、ほとんど相関関係が成立しなくなっていた。 3.HIV遺伝子の検出状況:PCR法及びRT-PCR法によって末梢血細胞内HIV遺伝子(LTR,U3部位)を検索したところ、Score0,1ではPCR産物を得られなかったが、Score2ではprovirusDNAとして約25%の検体に検出された。Score3へ移行した場合のprovirusDNAの検出率は約50%に増加し、更に、1検体からウイルスRNAがRT-PCR産物として得られた。この個体はCD4^-T細胞が16ケ/ulと極めて少なく、且つ、補体系活性も測定範囲以下に微弱化していた。尚、本実験系のPCR感度は細胞100ケ当り1コピー以上のウイルス遺伝子が存在する場合に陽性となる。 補体活性に伴って出現すると考えられるCD4^-T細胞はHIV感染における無症候状態の維持に一必須因子である可能性が示唆された。今後は、この細胞の生体内での存在意義の解明に重点を置いた実験を計画している。
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