RNA分子の多様な高次構造をX線構造解析で原子レベルで明らかにし、またそれを基に分子動力学の理論計算より構造と機能の相関を明らかにした。 1.結晶構造解析結果:塩基配列UGAGCUUCGGCUのRNA分子はヘアーピン構造ではなく、2本鎖で2重らせん構造を形成し、分子中央部分に連続した4つの非ワトソン-クリック(W&C)型塩基対を含む。GU塩基対は転移RNAにも見られるが、UC塩基対は、塩基間に1本の直接の水素結合と水分子を介した水素結合が形成された新規の構造である。この非W&C型塩基対の連なり部分の大溝には水分子の水素結合によるネットワークが存在し構造を安定化している。分子5'末端にあるU塩基同志もUU塩基対を形成し、2重らせん分子間でのりの役割をし、結晶格子形成を可能としていた。パッキングでは2重らせん分子間には水を介した相互作用のみならず、RNA固有の2'水酸基が直接水素結合する様式が見られた。分子全体は通常のA型構造を維持している。非W&C型塩基対部分では、らせん軸方向の上下の塩基間の重なりによる安定化がうまく起こるような塩基対の回転、移動が見られ、通常のらせん構造からずれていた。リボース糖の立体構造およびリン酸-糖の骨格の結合周りの配座(ねじれ角)に大きなずれは見られない。このように他の方法では明らかに出来ない核酸と水分子の相互作用様式をX線構造解析で明らかにした。 2.分子動力学計算:この構造を基に、水分子による安定化機構が再現できるかを検討した。30オングストローム立方の水分子の集合の中に2重らせん分子(半径10A、厚さ18A)を置いて計算した。その結果、結晶構造で塩基の間で見られた水分子が、ほぼ同じ位置に見られた。水の存在が非W&C塩基対形成に重要であり、またRNA分子の2'水酸基も水を介した水素結合によって安定化に寄与することが明らかとなった。
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