平成4年度の研究目標は、制限酵素切断断片長多型(RFLP)マッピングと人工酵母染色体(YAC)ライブラリーを用いたクロモソームウォーキングの新しい手法により、葉緑体脂肪酸16:2、18:2不飽和化酵素遺伝子のクローニングを行なうことである。 シロイヌナズナのfadD遺伝子座は脂肪酸16:2、18:2不飽和化酵素遺伝子に対応すると考えられている。クロモソームウォーキングを行なうため、fadD遺伝子座近傍の詳細なRFLP地図を地図を作製し、近接するRFLPマーカーからの距離を決定した。次に、それらRFLPマーカーを出発点に、YACを用いたクロモソームウォーキングを行ない、fadD遺伝子座領域をYACクローンによってカバーした。そして、得られたYACクローンをTiプラスミドベクターを用いてサブクローニングし、アグロバクテリウムによる形質伝換系を用いて、fadD突然変異に対する相補性の検定を行なった。葉緑体膜脂質の脂肪酸レベルの変化を指標にして目的とする遺伝子のクローンを単離した。決定されたDNA塩基配列から推定されたアミノ酸一次構造は、和田らによってラン藻から単離されたdesA遺伝子がコードするw-6脂肪酸不飽和化酵素とおよそ30%の相同性を示し、その中には、12アミノ酸残基中10残基が一致する高い相同領域が見出された。この領域は、高等植物とバクテリアの脂肪酸多不飽和化酵素の共通した反応機構に関与していると推定された。
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