研究概要 |
ハイリスク児に関する研究を推進するために,九州大学医学部小児科や聖マリア病院,福祉施設等と連携を取り,医学的診断,治療体系を背景として,臨床心理学的アプローチを組識的,体系的に行なえるような体制を構築した。研究環境の整備によって収集したハイリスク児に関するデータを分析したが,1000g以下で出生した超未熟児を含めてハイリスク児の発達は,脳性マヒ等の明確な障害を伴わない場合にも問題があることがわかった。この事実は,田中ビネーやWISC-Rなどによる知能検査の結果で裏付けることができた。さらに,そうした知能指数のような単一の指標だけでなく,それを構成する下位構造に着目し,探索領域や描画機能を含め,行動観察などを実施してきた。それらの結果から,ハイリスクの発達像には何らかの歪みが存在することが明らかになった。これらのデータの一部は,すでに日本特殊教育学会(平成4年)で三題にわたって発表したが,臨床的対応の在り方を含めて大きな反響があり,データの追加と分析の検討を継続して行なうことにした。また,日本教育心理学会総会(平成4年)において「発達援助としての動作法」と題して小講演を行なった。その中で,合併症を持つハイリスク児,とくに脳性マヒや重複障害,染色体異常(ダウン症,ブラウダリーウィリー症候群),重症仮死出生などの問題に対する臨床的対応の在り方と発達援助に関する理論的見解を示した。今後,他の共同研究者のデータと合わせて,研究成果の補強・充実をはかり,合併症がなければ3〜5歳でハイリスク児が健常児の発達水準に到達するという「キャッチアップ論」に一石を投じる予定である。その際,合併症の有無に拘らず,ハイリスク児一人一人の発達状態に応じた臨床的対応の必要性とその具体的理論と技法について言及する。
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