研究課題
中間報告として三つの点を指摘しておきたい。第一に、多くの国で国際理解教育の教育方針が、学校教育の基本的な教育目的と合致していることである。例えば、オーストラリアにおける多文化教育の学習目標は、「オーストラリアの多文化社会に参加する良き市民を育成する」学校の教育目標と深くかかわっている。第二に、国際化が進行する中で、多くの国では国内問題と国際問題が表裏一体の関係となり、国際理解教育の視点が必要不可欠なものとなりつつある。たとえば、オーストラリアの「多民族の共生」という国内政策は、オーストラリアの相対的な英米離れと、アジア・太平洋地域の経済圏のメンバーになろうとする「脱欧入亜」という対外政策と無関係ではない。いわば、オーストラリアの「外なる国際化」が「内なる国際化」を呼び覚ましたのである。このような「外」と「内」の一体化は、多くの国で同時進行の形で起りつつある。第三に、国際理解教育は、世界的な展望の中で自国のイメージについて再解釈する道を開き、将来へ向けて新しい国家観を構築する役割を果たしつつある。例えば、オーストラリアの多文化主義では、白豪主義の衰退から多文化主義が起る社会的な変化は、オーストラリアの自己イメージが、「古いオーストラリア」から「新しいオーストラリア(60年代後期以後)」へと変化した。このように、近年の国際理解教育は、多くの国で「自国イメージや自己アイデンティティについて変革」をもたらす役割を担いつつあり、新しい国家観について、その方向や内容を提示することが求められている。
すべて その他
すべて 文献書誌 (2件)