研究概要 |
今年度は,平成4年度の調査・資料収集・研究会における議論を引き継ぎ、主に第二次大戦後および沖縄の日本復帰後の時期に焦点を合わせて,移動・出稼ぎ・本土体験・Uターン現象・文化ギャップ等に関する聞取り調査,文書・統計その他の資料収集を実施した。対象は沖縄(本島),宮古,庵美地区などであり,すでに沖縄・那覇都市圏居住者の動向をめぐる先行研究があることを考慮して,調査は主に農村・離島部を中心に行った。沖縄住民の本土体験が時代差・世代差に加えて,性別,出身地域の状況,移動パターン等の違いによって多様であることは昨年度の研究でも明らかになっていたが,戦後・復帰後の同じ体験についても,一方で就労・就学目的や憧憬からの本土行,異和感,短期間での帰沖,現地社会への漸次的再定着といったライフヒストリー上の基本パターンの中に,様々に異なる生活文化の体験,屈折した本土観,沖縄出身者相互の依存や反感,本土文化の受容など,共通した諸局面がみとめられながら,他方では本土体験の個人差も著しく,本研究が扱う問題群の複雑さが明瞭になってきた。また、沖縄住民の海外における生活体験を含めて本研究のテーマを追求していった場合に、人びとの体験してきたアイデンティティの揺れ(日本人という国民としての自覚と地域的帰属意識とのズレ)が、とくに1972年の復帰を境にして大きく変化したのは確かであり,復帰後における沖縄人意識はまた別の方向に屈折してきたものと考えられる。本研究で扱いえたのは南洋出稼ぎ,留学等の僅かな事例でしかないが,この海外体験の文脈で本土-沖縄の文化落差を解明するという課題については,新たな研究計画を立案し,体系的に調査研究をする必要があろう。
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