研究課題
本年度の文書料紙原本の調査は、東大寺文書・東寺文書・離宮八幡宮文書・久我家文書・上杉家文書・大友家文書等について行い、700件以上の調査を採り、そのデータをコンピュータに入力した。紙片サンブル調査としては、60件余の紙片を採取でき、その科学分析を依頼した。文献調査では兵範記・長秋記・台記・山槐記・公衡公記・貞信公記・九暦抄・御堂関白記・石山本願寺日記等の古文献から紙に関するデータを収集し、これもコンピュータに入力した。これらの本年度の調査・分析のデータを加え、この3年間に蓄積したデータを基に、4回にわたって研究会議を開催し、検討を行った。その結果、概ね次のように文書の料紙の時代的変遷を考えてよいのではないか、という結論に達した。この結果を冊子の報告書にまとめ、印刷刊行した。いずれ関係方面に配付する予定である。我が国の古代中世における文書の料紙については、奈良時代には、麻紙・楮紙あるいに種々の素材の混合紙等様々な紙が使われたと思われるが、平安時代に入ると、文書料紙は次第に楮紙を主体にするようになり、斐紙を主体とする典籍類と好対照をなすようになる。しかし、戦国時代には、武士を中心に斐紙が文書料紙としても使用されるようになり、斐紙が楮紙とならぶ重要な料紙となった。楮紙は細かくみれば幾つかの種類に分類できるが、平安期では重大なことや身分の高いものが使用した文書には、檀紙が用いられた。鎌倉期ではそのような文書には、檀紙の外に杉原紙が用いられるようになる。しかし、主流は檀紙であった。南北朝期になると、檀紙と杉原紙の地位は逆転する。室町期には、杉原紙の全盛といってよく、檀紙の高級な一部は引合と呼ばれるようになった。一方、杉原紙から奉書紙が生み出されてくるのもこのころである。戦国期は、杉原紙・斐紙主体の中で奉書紙が普及し始める時期と言えよう。詳しくは、報告書の中で論じたい。
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