日本における公正原理の特色を、特に英・米・独・蘭の4ケ国と比較しつつ、理論的・実証的に探究した。現在までに得られている主な知見は、以下のとおりである。 1.最大の特色として、日本人が公正原理として『機械的平等』を好む傾向がある点をあげられる。たとえば、日本以外の4国では結果の平等よりも機会の平等に「強く賛成」する率が3倍から7倍であり、日本は両者がほぼ同じという唯一の国である。 2.もっとも、『機械的平等』は単一の次元とは言い難い。因子分析を試みた結果、5ケ国の分析結果からは4つの次元を考えられる。このうち、日本人は3つの次元で『機械的平等』を好むといえる。すなわち、(1)単純平等、(2)くじ引きによる分配、に賛成し、また、(3)一定の理由による不平等の容認、に反対する。ただし、(4)個人努力などに応じた賃金分配、に関しては英・米と独・蘭の中間である。 3.また、日本人は、社会の階層的な差が小さいことが望ましいと考えている。そのため、福祉政策などにも積極的に賛成する。特に、雇用の保障に関して、日本人は他の4ケ国よりも積極的である。 今後の課題は、数理モデルや国際比較計算分析などによる社会的公正の原理的な検討を進めつつ、得られた知見の具体的・社会的問題への応用を考察していくことにある。
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