研究課題
一般研究(A)
事故によって、傷害・疾病等の人身被害が発生する態様は様々である。しかしこうした場合に、事故態様の如何にかかわらず、医療費や労働能力の喪失に伴い経済的損失が発生する。法は、こうした事故による人身被害に対する救済制度として、不法行為制度、国家賠償法制度、労働者災害補償制度、各種の私営保険制度、健康保険制度等の社会保険制度や社会保障制度等、様々な制度を準備している。これらの制度は、人身被害の救済制度としての共通性を有しているにも拘らず、それぞれの歴史的経緯を経て個別に誕生、発展し、それぞれ異なる専門分野の研究対象として位置づけられてきた。このため、これらの制度を人身被害の救済制度として総合的に把握し分析するという試みはこれまでほとんどなされてこなかった。しかし、各種の人身被害救済制度が充実・発展するに従って、各制度間の重複や間〓、あるいは制度間の交錯が問題とされるようになり、これまで並立的に存在してきた各制度間の制度目的やその理念の抵触、食い違いが問われるようになってきた。本研究は、これまで総合的な考察の対象とされてこなかった人身被害救済に関わる各種の制度を総合的に把握し考察することを通じて、今日的状況の中にあってこれらの制度の意義を何に見いだすべきか、言い替えればこれらの制度をどのように再評価すべきか、という問いに答えを与えてくれるような新たな基準や理念を模索しそれぞれの制度の今後の発展のための基礎作りを行うべく、一方において、わが国の各制度の現状認識を深めるための研究を行うと共に、他方において近年こうした研究が活発になりつつあるアメリカ法の動向の調査研究を行った。研究課題の性格上、短期間で総合的な結論を導き出すことはできなかったが、新たな視座の提供によって、この分野の総合的研究のための道をある程度まで拓くことができた。
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