研究課題
最終年にあたる本年度は、地域比較をめぐる原理的考察と、地域比較の手法を適用して具体的・実証的研究をおこなうことに目的を設定した。1.地域比較をめぐる原理的考察:地域比較を認識論レベルで原理的に考察するために、[主体・事象・空間]の三者からなる空間認識の諸形式を4つに整理した。すなわち、(1)あくまでも「理解」のレベルにとどまり「説明」のレベルへの移行を拒否する現象学的立場、「説明」のレベルへと移行する点では共通するが、(2)主体・事象とは独立して空間が存在するとする空間の絶対主義に立脚する立場、(3)空間は事象そのものあるいは事象間の関係に還元できるとする空間の相対主義に立脚する立場、(4)空間は主体と事象との関係性に還元できるとする立場の4つである。地理学において地域比較をになってきた地誌研究とこれら4立場との関係を整理した。そのうえで地域研究の現段階を整理し、地域比較・地誌研究・地域研究に通底する問題として、比較あるいは研究における最適単位問題またアポリア(論理的難題)の存在を指摘した。2.具体的・実証的研究:南アジア・オーストラリア・アメリカ合衆国における地域像、歴史的地域、農耕、中心地体系、都市、地域主義などを地域比較の観点からとりあげて、研究した。たとえば南アジアの地域像の研究では、アフリカ研究・西アジア研究・中国研究における準拠枠を抽出したのち、それらと比較しての南アジア研究の特質をあきらかにしたうえで、南アジア地域像の形成におけるカーストのもつ「分節しかつ統合する」役割を指摘した。
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