研究概要 |
スピン1を持つ重陽子による原子核散乱では,散乱前後で重陽子スピンの反転(△S=1,2)が可能である。この一重及び二重スピン反転確率を測定することにより,重陽子だけが励起可能な未知の荷電スカラー・スピンモードを発見し,有効相互作用の中でも最も研究が遅れている電荷スカラー・スピン力や核構造の情報を得るのが目的である。 重陽子スピン反転確率は,偏極ビームを使った二回散乱法により測定されるヴェクトル及びテンソル偏極移行量から求められる。そのためにスペクトロメータの焦点面に汎用重陽子偏極度計を建設した。 昨年度に引き続き今年度も,偏極度計の有効偏極分解能(iT_<11>,T_<20>,T_<21>,T_<22>)の較正を、理化学研究所のリングサイクロトロンからの偏極重陽子ビームを利用し230MeVの250MeVの270MeVの3つのエネルギーにおいて行った。散乱体のプラスチックシンチレータ中の炭素(^<12>C)と重陽子との弾性散乱を利用するヴェクトル偏極分解能(iT_<11>),ならびに水素(^1H)とのエキゾチックな^1(d^2,He)反応によるテンソル偏極分解能(T_<20>,T_<22>)について解析を終えた。解析結果から,ほぼ当初予定した性能が全てのエネルギー範囲で有ることが明らかになった。 270MeVの偏極重陽子ビームを使い,^<12>C(d,d^1)^<12>C′反応のヴェクトル及びテンソル偏極移行量の測定を実験室系の角度で3度から7度の範囲について行った。現在その解析を進めている。また,重陽子非弾性散乱で励起される電荷スカラー型一・二重スピン反転励起の応答関数の理論的研究も進めた。 これら一連の成果は,1995年6月にオランダ国Groningenで開催された,巨大共鳴国際会議で発表した。
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