本研究の目的は、我々が開発した2次元表示型の球面鏡エネルギー分析器を改良して、固体内電子のエネルギーバンドを3次元的に測定し、電気的性質を始めとする物性を迅速に研究することであった。この分析器は、特定のエネルギーの電子の放出角度分布を2次元的に表示することができるので、バンドの断面図を直接観測でき、またフェルミ準位からの光電子を観測するとフェルミ面の2次元的な形が実際に目で見えるようなる。 装置の改良としては従来使用してきた試作品の分析器を、バンドの2次元測定に適するように、取り出し立体角を±60°と大きくした。また、検出器も、カウント数が多くても使えるCCDカメラシステムに切り替えた。また、種々の試料が効率よく測定できるような、超高真空槽を設計して作成した。また、従来の分析器では、エネルギー分解能を高めると角度分解能が悪くなるという欠点があったので、その克服のための特殊グリッドをセラミックで製作した。電子状態の研究も大いに進んだ。単結晶グラファイトのバンド構造の断面およびフェルミ面の形の研究においてはπバンドの様子がきれいに観測された。励起源に直線偏光を用いたので軌道の対称性まで判った。また、異なるブリルアンゾーンが等価でなく、対称性が破れているのが観測された。強結合近似による計算を行った結果、「光電子の構造因子」という新しい概念を用いて説明できる事が明らかになった。このような対称性の議論は従来の角度分解型の測定では極めて難しく、2次元角度分解同時測定の有効性が明らかになった。また、いくつかの遷移金属カルコゲナイドについても測定を行った。IT-TaS2での実験を、内殻共鳴エネルギーの光で行ったところ、強度分布が全く異なるという現象を発見した。これは、共鳴光電子放出の角度分布を測定した初めての例であり、共鳴過程に関するより詳しい議論が可能になる道を開いた。
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