生体アミノ酸のカイラリティがなぜL型だけに偏ったのか、その機構を解明するため、アミノ酸に関するフォトリシス実験、ラジオリシス実験、シミュレーション実験、オリエンテーション実験を、パ-フェクトロンを用いて系統的・相補的に行ってきた。本年度も当初の実施計画に従い、以下の研究を行った。 □アミノ酸分子のクラスタリング機構:アミノ酸は不揮発性であるため、通常のノズル・ビーム法は使用できない。十分冷却された超音速分子線を得るには、アミノ酸分子をキャリヤ-ガスに混入して一緒に冷却加速するビームシ-ド法を用い、レーザー脱離によるアミノ酸分子線源と併用することにより、マッハ数20に達するアミノ酸の低温ビームを得ることができた。ビーム強度も十分であり、アミノ酸の2量体も観測された。わが国としては他に観測例はない。現在、更に多量体の生成を試みている。 □フォトリシス実験:原子地球大気中でアミノ酸分子が化学進化する過程をシミュレーションする目的で、可変波長のVUV光源の開発を行い、波長100nm領域のVUV光の発生に成功した。この波長領域の可変波長光源は他に得難いので、他の実験にも貴重な技術を提供し得る。このVUV光を直線偏光してHI分子から解離したホットH原子のドプラー幅を観測した結果、極めて単色の性の高いH原子線が得られ、H原子線回析実験による表面解析への新しい道が開かれた。 □ラジオリシス実験:カイラル分子の軌道電子のヘリシティを測定する実験の準備として、低速ポジトロンの偏極度を測定するモット-検出器を製作した。併せて低速ポジトロン蓄積装置SOSの整備もすすめた。 □シミュレーション実験:前年度に継続して化学進化過程の計算機シミュレーションを行った。パリティを破るPNC効果を有利因子とし、太陽光が円偏光している効果と、反応の熱力学的揺らぎの効果を標準正規乱数として取り入れたランジュバン方程式を約6000年分を計算した結果、従来考えられていたものより短期間でカイラリティの破れる可能性のあることがわかってきた。
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