研究概要 |
GaAs/AlGaAsヘテロ構造に微細加工を施すことにより,2次元電子ガスをさらに1次元に閉じ込めることが可能である。このような擬1次元系の電子は,状態密度の特異性と散乱体との相互作用における波数ベクトルの保存則の選択性から,バルク半導体では見られない興味ある電気伝導を示すことが予測されている。特に,低温ではバリスティック伝導や電子波の干渉効果,量子伝導揺らぎなど様々な興味ある現象が見いだされている。本研究では,磁気フォノン共鳴を理論と実験の両面から調べ,高温領域における電子-フォノン相互作用を解明することを目的としている。1.電子線描画装置を含めた実験用の素子作製装置の立ち上げを行い,素子作製に関する基礎的な技術を確立した。そして,二光束干渉法による表面超格子構造と電子線描画装置による量子細線構造の作製を行った。2.作製した試料を用いて低温におけるシュブニコフ・ド・ハース振動を観測し,その結果から細線の量子閉じ込めの強さを見積もった。3.高温領域(100K〜200K)において,量子細線の磁気フォノン共鳴現象を観測し,磁気抵抗の振動の振幅は140K付近で最大となることがわかった。4.この磁気抵抗の振動から電子の有効質量と量子閉じ込めの強さを見積もった。その結果,電子の有効質量はバルク中より重くなること,閉じ込めの強さは細線構造(エッチングの深さ)に依存することを見いだした。5.同様の実験を静水圧下でおこない,圧力によりキャリア数が減少し,電子の有効質量が増加することを見いだした。6.作製した表面超格子をフォト・ルミネッセンスにより評価し,GaAsの発光ピークより低エネルギー側での発光を観測し,量子閉じ込め効果の存在を確認した。7.量子細線中の電子輸送をモンテカルロ法により解析するための新しいモデルを提案し,解析を行った。その結果,指摘されていた電子の異常冷却現象が起こらないことを見いだした。
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