我々はこれまで、数多くの合金系で準結晶を作製し、その構造と電子物性を研究してきた。その結果、熱的に安定な準結晶は熱処理によりその準結晶性を高めることが出来る。格子欠陥が減少するほど、比抵抗が増大する準結晶に特徴的な性質を見い出した。特に、Al-Ru-Cu準結晶では比抵抗の値が0.025Ω-Cmを越え、10^<18>cm^<-3>程度の電子濃度を持つ半導体の域に達している。このように、熱的に安定な準結晶を価電子数を制御することにより、ホール係数が正でキャリアがホールのP型、ホール係数が負でキャリアが電子のn型準結晶を作製することが重要な課題である。この目的達成のため、平成4年度では、遷移金属を含まない出来るだけ単純な構成元素から成る系を出発点に選びその生成範囲及び熱的安定性、さらには電子物性を調べた。その代表としてMg-Al-Zn系を選びメカニカルアロイング法を利用して準結晶及び近似結晶の生成範囲を詳しく調べ、DSCにより熱的安定性を明らかにした。その結果これまでこの系では報告されていなかった安定な準結晶相をごく限られた組成領域で発見した。またその近傍で(2/1-2/1-2/1)の近似結晶も新たに発見した。他のいくつかの系でも同様に調ベ、現在準結晶及び近似結晶の熱的安定化のための要因を明らかにしている。また、価電子制御を行なうため、平成4年度に購入したモノクロXPSによりこれらの価電子構造を調べており現在そのデータが蓄積されつつある。このような準結晶および近似結晶を薄膜化するためレーザーアブレイション法により合成を行みた。その結晶Mg-Al-Zn系で近似結晶の薄膜化に成功した。薄膜基板の材質、温度の最適化を図り、準結晶薄膜の作製が可能になる条件を探索中である。
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